どうしてわたしはあの子じゃないの
寺地はるな
佐賀県の肘差村に住んでいた中学の同級生3人が、大人になり、昔、お互いへ書いた手紙を一緒に開けようということになり…。
天(三島天)とミナ(小湊雛子)は、ミナが小学2年生のときに転校して来てからのお友達同士です。天と藤生(吉塚藤生)は同じ地元出身なので、小さい頃から知っている間柄。実は藤生は、密かに天に想いを寄せているのだが、天はミナと藤生をくっつけようとするので、微妙な三角関係のままです。毎年9月にこの地域で開催される『浮立』(肘差天衝舞浮立)と呼ばれる、五穀豊穣・無病息災を願って奉納する、踊りの練習をしていた頃のお話がメインです。章各ごとに、天、ミナ、藤生の3人の視点で語られます。
それぞれの家庭環境の複雑さに加え、田舎で暮らすことの閉塞感など、「あるある!」と思わず唸ってしまうほどに、リアルな人間関係が描かれます。天は、いつもここ(肘差村)ではないどこかを夢見て、早く家を出たいと考えています。隠れて小説を書いているのですが、そのことを、いつも家族にバカにされているからです。
自分以外のだれかになりたい!、とだれでも1度は想ったことがあるはずです。それでも、どんなに願っても、自分以外のだれかになることはできないし、『選ばなかった人生』に想いを馳せるより、今を一生懸命に生きることで、未来を創っていくしかないのです。